短縮0番 |
コチコチコチコチ........ やけに時計の音が耳についた。 頭にズキズキと鈍い痛みが襲う。 ちょっと動くだけでもだるかった。 「…………やば…」 起きあがろうとしても手に力が入らない。 新一はベッドから出ようとし、力尽きた。多分39度は超えてるような気がする。 「博士たちはキャン…プに行って…んな」 言葉に出さないと今何を考えているのかわからなくなりそうだった。 室内に時計の音と自分の声だけが聞こえた。やけに大きく。 「このさい…仕方ねぇ…ょな…?」 途切れ途切れにそう言うと体をなんとか動かし、枕元に置いていた携帯をつかんだ。 そして力の入らない指で密かに登録していた番号を押した。 0番を。 ◇◆◇◆◇ 「おい黒羽、早く行かないと映画始まるぜ」 「お〜今行く」 快斗は焦る友人に苦笑し、席を立った。今いるファーストフード店から映画館まで早歩きで5分くらい。映画が始まるまで後10分くらいだから余裕なのだが。 快斗が友人のために心持ち急いでいると太股あたりにかすかな振動を感じた。 それはポケットに入れていた携帯だった。名前ではなく番号が表示されているので登録していない、つまり知らない人からの着信だった。 いつもだったなら知らない人からの電話は無視している。 ただ なぜかこの電話は 出なければいけない気がした。 「悪い、電話!」 「早くしろよ!!」 友人に断りを入れ、通話ボタンを押した。 「はい、どちら様ですか?」 「………………」 「もしもし?」 声をかけても誰もでない。自分の勘も鈍ったなぁ〜なんて思い、電話を切ろうとした。 「キ…ドか?」 「名探偵!?」 声を聞いた瞬間、体が跳ねた。 どうしてこの番号を知ってるんだ!?とか、 素性ばれてる!?とか、 そんな考えがよぎるより先に彼の声に神経が集中した。 「…どうされたのです、名探偵。調子が悪そうですが?」 「あ〜…わかるか?悪い…んだけどうちの家の薬…探してくんねぇ?…うち、わかる…だろ?」 「えぇ、かまいませんよ。しかし女史はどうしたんです?」 「キャンプ…行った」 「わかりました。今から向かいます。その様子だと食事もとっていらっしゃらないでしょうね。おやすみになって待っていてください」 「あぁ…ありがとな。それじゃ…」 ピッ 「っかし、俺に電話するなんてよっぽどなんだなぁ」 「おい!黒羽!映画!!!」 「あ、悪い。俺行けんくなった。じゃーな!」 友人の叫び声を後目に快斗は既に走り出していた。 名探偵の危機に急がずにおれるだろうか、いやおれはしない!!(断言) とりあえずまずはスーパーへと走っていった。 工藤邸を前にし、快斗はキッドの気配をまとった。正体は知られてるし、格好も快斗のまま。だが、キッドで呼ばれたのだからキッドで行くのが筋だと思った。 キッドはドアノブを回してみるとやはり鍵がかかっていた。鍵を開けようと思い、ピンキングセットを取り出したその時、カチャッと鍵の開く音がした。 「よぉ…」 「名探偵…っと!」 ドアを開けたあと力尽きた新一を抱き止め、キッドは工藤邸へ入った。 「名探偵、寝て待っていてくださいと言ったでしょう」 「おまえの気配がした…から」 「まったく…それにしてもかなり熱いですよ」 「熱計ってない…」 「後で体温計を持っていきます」 「失礼します」とキッドがつぶやいたかと思うと新一の体はふわっと宙に浮き、そのままキッドの腕の中にポスンと収まった。 俗に言うお姫様だっこというやつである。 「なっ…/////」 「はいはい。熱が上がるから暴れないでくださいね」 キッドは暴れて力尽きた新一を部屋へ連れていき、ベッドに寝かしつけた。 大人しくベッドな入る新一にご褒美とばかりに指を鳴らすとキッドの手には体温計が握られていた。 タネを見破ろうと起きあがる新一に体温計を口につっこんだ。 「大人しくしていなさい。………随分熱が高いですね」 赤い液体が体温計を駆けあがる。38.5までいき、最終的には39.7で止まった。かなりの高熱だ。 「まったく…こんなに熱を出していて動くんですから。…食べないと薬が飲めませんね。お粥作ってきますから大人しくしててください」 「あの格好であのしゃべり…変なの」 キッドが部屋を出ていった後、新一はくすっと笑ってつぶやいた。言い終わったときにはその瞳は閉じられていた…。 次に新一が目を開いたのはそれからしばらくのことだった。 「あ、起きられましたか?お粥、温めてきますね」 「起こして…れば良かったのに」 「寝れるときに寝ておいた方がいいですよ」 「はい、あーん」 「……………」 「食べないのですか?」 新一は心底不思議そうにしているキッドを殴ってやろうかと思ったがそんな気力も体力もなかったので渋々差し出されたれんげを口にふくんだ。 「…味がない」 「当たり前ですよ。風邪ひいているのですから」 「もったいねぇ」 新一の言葉にはにかみながらキッドが笑った。それは今まで新一が見たことのない優しい笑顔だった。 「おや?名探偵、先程よりお顔が赤いようですが熱が上がりましたか?」 「…っ///なんでもねぇ…よっ」 キッドは頭の回りにはてなマークを浮かべながらも、またれんげを差し出した。 渋々ながらも差し出されたれんげを口にふくむ新一になぜだかドキドキしてしまった。 新一はそれから3口程食べ、ギブアップした。 「はい、頑張りましたね。薬です」 「…おう」 「口移しで飲ませましょうか」 キッドがにやりと笑っていった。新一は口をパクパクさせ、夢中でキッドの手から薬を奪い取ると大急ぎで飲み込んだ。 薬を奪い取られキッドはハッと我に返った。意識が飛んでなきゃ今の新一にキッドから薬を奪うことなんて不可能だ。 それにしてもどうしてあんなことを言ったのだろう…。 キッドは悩みながら新一が薬を飲み終わるのを見ていた。 「女史はいつ帰られるのですか?」 「明日…」 「それでは今日は泊めていただいてよろしいでしょうか?」 「あ?あぁ…別にいいけど…」 「それでは今日は泊めさせていただきますね。今日はもう寝てください」 「おぅ…面倒事押しつけて悪かったな」 「いえいえ。名探偵のおっしゃることならば喜んで」 「サンキュ」 「あの天然たらしめ…」 キッドがいなくなった部屋で新一が一人つぶやいた。 「なんであんなに可愛いんでしょう…」 工藤邸の客間でキッドが一人つぶやいた。 ((このキモチどうしてくれようか……)) 二人の心の声が合わさった。 新一はキッドのことを考えた。心臓が早くなったのは風邪のせいだけではないだろう。あまりにドキドキし過ぎてオーバーヒートし、ぐっすりと眠りについた。 キッドは新一のことを考えてみた。新一のことを考えると心が温かくなった。あまりに考えすぎて眠ることが出来なかった。 「「おはよう…」」 熱もすっかり微熱までに下がった新一と、かなり寝不足気味なキッドはあいさつをかわした。少し気まずい空気が漂う。 「雑炊作ったのですが食べられますか?」 「食う」 新一は一口食べてまだ味覚の戻らない自分が少しうらめしかった。すっごくおいしそうなのに、香りまでわからなくて悲しい……。 ご飯も食べ終わり、またしても二人の間で気まずい空気が漂った。 「…それでは私は帰りますね。怪盗がいつまでもここにいては帰ってこられた女史に何をされるかわかりませんからね…」 苦笑を漏らすキッドに「帰った方がいいかもな…」と新一は遠い目をして答えた。 「また――――」 「何ですか?」 「また俺が元気なときになんか食べるもん作ってくれるか?」 「はい!喜んで!!」 即答に近い答えに新一は笑顔になった。 その笑顔を見てキッドも笑顔になる。 と、車の音が聞こえた。それは隣家の車の音かはわからない。だが、二人の別れの合図には十分だった。 キッドはやや後ろ髪引かれつつ工藤邸を後にした……。 二人が告白を決意するまでもう少し――――――――――。 |
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